日本民芸の祖・柳宗悦との運命的な出会い 創始者・池田三四郎
昭和23年、松本民芸家具の創始者、池田三四郎は、京都の相国寺で開かれた日本民芸協会第二回全国協議会において、日本民芸の祖、柳宗悦と運命的な出会いをする。
「人間の一生には三度の誕生がある。その第一はもちろんこの世に生を受けた時であり、第二は人生とは何ぞやという人生観を考えるようになった自己発見の時であり、第三の誕生とは先覚者の話、または書籍などによって従来の考え方に転機を与えられた時。私にとってはこの相国寺の夜の講演が第三の誕生になったと考えられる。」
「美の法門」と題したその講演の内容、そしてその場の雰囲気に圧倒された池田三四郎は、後にその時の思いをそう語っている。
この日を境に、池田三四郎は民芸論の研究、体得に励み、柳氏の松本の木工業の復興を民芸によって果たしてほしいという願いにこたえるべく、家具作りの道を歩み始める。
松本民芸家具の始まりである。
情熱と腕のある職人との絆から生まれた唯一無二の家具
松本は大正時代の末、日本屈指の和家具の産地として栄えた。ところが戦争と終戦直後の混乱によって和家具の生産は休止状態になり、木工職人もバラバラになっていた。そこで池田三四郎は、その職をなくしている無名の名工を集め、戦後のこれからの日本の暮らしに必要とされるであろう洋家具を作らせることを考えた。しかし、洋家具の知識すらない頑固な和家具職人に未知なるものを作らせるということにおいてそれは決して容易なことではなかったという。
しかし、池田三四郎が真剣にこの仕事の尊さを語り掛け続けていくうち、いつしか職人たちも心を開いていった。元来情熱と腕のある職人たちは、仕事を覚えるのも早かった。後になって、英国の陶芸家、松本民芸家具の指導をしたバーナード・リーチ氏が「イギリス風の椅子作りを教えると、すぐに勘所をつかんでしまう。」と感心していたほど。
庶民工芸の代表・ウインザーチェア
松本民芸家具が当初より特に力を入れて研究・製作したものが椅子である。イギリスのウインザーチェアとアメリカの開拓時代のウインザーチェアなどを主な手本とした。
それは、ウインザーチェアが庶民のなかから生まれ、庶民に育て上げられ、その後の家具の歴史に多大な影響をあたえるまでに成長した、まさに庶民工芸の代表ともいえる椅子だったからである。
先ずは古いものを忠実に習作する。そうすることで先達の英知を体得する。そして繰り返し作り続ける。そんな椅子作りは、失敗を繰り返しながら着実に完成度を高めていった。
現在まで永きに渡り愛され続けるウィンザーチェアは、松本民芸家具の代表作でもある。
第十回民芸大賞を受賞・妻キクエが開発したラッシ網み椅子
昭和30年代に入ると池田三四郎の妻キクエが中心となり、編み方を研究して技術を確立した。
開発したラッシ編み椅子(いぐさの一種)が第十回民芸大会賞を受賞、全国主要都市の有名百貨店などで販売が始まるなど松本民芸家具は徐々に世間に広まっていった。
その後、地元の女性や職人たちの間で伝承してきた。
このラッシ編み椅子は今日でも松本民芸家具の椅子のレパートリーの中で他社の真似のできない特色ある分野を築いている。
松本民芸家具の特徴
素材はミズメ(ミズメザクラ)を主要材として、欅(ケヤキ)、栃(トチ)、楢(ナラ)などそのすべてが日本国内産の落葉高木によって生産されている。
昭和49年に、当時の通産省指定の「伝統的工芸品」に、家具の分野では全国に先駆けて「松本家具」として指定をうける。「松本家具」とは、歴史ある松本地方の伝統的和家具の数々であり、それはさまざまな複雑な木組の技術によって作られている、
現在も松本民芸家具の一バリエーションとして製作されており、またこの技術が和洋問わずすべての松本民芸家具の製品に生かされている。
塗装は、漆、ラッカー塗装などであり、すべて手塗りにて仕上げられる。通常のラッカー仕上げで8回、漆仕上げは13回以上時間を掛けて丁寧に塗り重ねられている。
日本の和家具と洋家具との本格的な結合、決して使い捨ての耐久消費財としてだけでなく、使う人それぞれが使い込むほどに昧わい深く、愛着をもって使うことができる今では数少ない本物の家具、そして時代を超えて新しく、しかしどこか懐かしい感覚を抱かせる。それが松本民芸家具である。
松本民芸生活館
昭和44年、池田三四郎は松本工芸の伝統を伝える若者たち、クラフトマンの寄宿舎として、見た目の形や、機能だけでは計り知れない物の本質を将来の作り手に体得させるためイギリス、アメリカ、フランス、朝鮮、日本などの家具や調度を収集、陳列。そうした本物とともに生活しながら、修行する場所として、「松本民芸生活館」を建設した。
現在では世界遺産に指定されている富山の五個山から、当時は廃村にあった合掌造りの民家を松本に移築したものだ。ここで職人の卵たちは毎朝5時から掃除で始まる集団生活をしながら、時間を積み重ねてきた家具の命を実感し、また心身ともに健康な体作りに励む。今の松本民芸家具の職人のほとんどはその卒業生である。こうして松本民芸家具は、絶やすことなく次世代へと伝統が受け継がれ、新しいモノづくりへと繋がっていく。
中央民芸ショールーム
城下町松本、その中心部にある中町通りは城下町色濃く、なまこ壁の土蔵造りの街並みが残る場所。その中町通りの真ん中あたりに松本民芸家具、中央民芸ショールームがある。
ここ中央民芸ショールームでは、松本民芸家具の製品を常時400点あまり展示。自由にご体感することができる。
また生活を彩る器やテキスタイルなど「真面目な手仕事」をコンセプトに諸国から集めた品々も多数展示、販売している。
松本民芸家具に精通したスタッフが常駐しており、松本民芸家具に関する質問、相談等、詳しく説明を聞くことができる。
店舗情報
ホームページ | http://matsumin.com/ | |
オンラインショップ | https://nakamachi.org/mingei | |
中央民芸ショールーム | 〒390-0811 長野県松本市中央3-2-12 営業時間 9:30〜17:50 定休日:無休 ※年末年始のみ休業(12月30日〜1月4日) Tel 0263-33-5760) |
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